日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『もはや私は貴腐人です』
『もはや私は貴腐人です』第1巻
鶴ゆみか 講談社 ¥680+税
(2015年11月6日発売)
貴婦人ではない、貴「腐」人である。
このマンガは、大人の女性になった腐女子である「貴腐人」が集まって語らう日常を描いた作品だ。
といっても日常系らしい「ゆるふわ感」は皆無である。むしろ即興セッションの趣というべきか?
小じゃれたカフェでお茶会を楽しむAさん、Bさん、Cさん、Tさんらタイプの異る腐女子4名のなかで発された、机と椅子どっちが攻? 受? の問いかけは、熱のこもった論争から、禁断の愛を描いたドラマチックな擬人化BL妄想になだれこみ、大もりあがりのまま閉店時間を迎える。
ほかにも「オイスターバーの牡蠣」、「歴史上の人物」、「文学作品」など、腐女子の目を持てば、神羅万象すべてが受か攻に判定できることがよくわかる。
腐女子ならば「あるある」が満載、知らない人には「そうだったのか!」と新しいものの見方を得られるだろう(役に立つかは不明だが)。
腐女子も貴腐人に至るほどの年齢を重ねれば、「カップリングの違いで喧嘩別れ」のような若気の至りもなくなり、お互いの主張を聞き入れる柔軟さも得て、萌えのためなら惜しみなく投下できる財力もある。
何よりも、ちょっぴり(?)後ろめたい趣味を持つ同士としての結束は固い。
連載のきっかけとなった「ラブホ腐女子会」(ラブホに女性のみでグループ泊して女子トークを展開するラブホ女子会の腐女子バージョン)は、たしかに普通に彼氏と行くよりもよっぽど刺激的でテンションも上がりそう(背徳感も含めて)。
こだわりのシチュエーションで男性カップルが繰り広げる愛や、たたみかけるようなやり取りを妄想し、その萌えを思いっきり共有できる仲間がいれば、リアルな恋愛などせいぜい腹八分目にしかならないだろう。
貴腐人の道を極めると、ものすごく楽しいのだが、あまりにも楽しすぎて引き返せない。……それが唯一の難点かもしれない。
<文・和智永 妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。